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2007年12月29日 (土)

鳴子温泉でも鄙びの極致の旅館「田中温泉」ご愛用の作家さんのことがようやく判った

大好きな温泉。まあ基本掛け流しのまともな温泉なら
嫌いな温泉はないのだが、好きな温泉というものはあ
る。関東近辺なら群馬の草津、万座、湯宿、四万、沢
渡、川原湯、栃木なら那須湯本、塩原新湯、塩原元湯
等々ね。しかし、ロケーション、雰囲気、湯の良さ、
値段の安さなどからはなんと言っても東北に尽きる。

その中でも湯の多彩さからはなんと言ってもダントツ
なのは鳴子温泉。湯治系の旅館が好きなので、その手
の旅館の多い鳴子温泉はご機嫌だ。鳴子には鄙び系の
旅館がいくつもあって、日帰り入浴するのはもちろん
最高なのだが、宿泊するのもなかなか乙なもの。その
鄙び系の中でも東鳴子温泉の鄙びの極致のような田中
温泉。お化け屋敷とも揶揄されるほどのボロ旅館だが、
その温泉は素晴らしきもので、温泉ファンなら一度入
浴すれば虜になること必定。

かつてはその斬新な浴室デザインもあり、栄華を誇っ
た時期もあったろう大きな旅館も今はリフォームなど
を全くしないような放置状態で、寂寥感が漂うばかり
のボロ状態。混浴の大浴場脱衣場に置いてある安物の
パイプ椅子さえビニールテープで補修を重ね重ねした
跡がどこか芸術性さえ醸し出すほどのボロの品格を示
している。

私はその風呂に日帰りで入浴することが大好きで、こ
れまでに幾度入ったか覚えていないほど。湯の素晴ら
しさに対して、入浴料金が200円の激安もある。し
かし、鄙び旅館好きの私でもその田中温泉にはどうも
宿泊までは躊躇するものがある。しかし、その摩訶不
思議な世界を泊って堪能したい奇特な温泉ファンもネ
ットで見る限り数人はいる。その宿泊記を読むと、や
はり食事(価格対比で見るととても見合う食事ではな
い)などうーんと言ってしまうようなもので、宿泊だ
けは遠慮したい旅館だ。

しかし、もの好きな人は世の中には多いもので、その
田中温泉に頻繁にしかも長期宿泊する作家がいるとか
の噂をかつてネットで読んだことがあった。昨日たま
たまネット徘徊していたら、ようやくその作家さんと
思われる方の文章に遭遇した。

その作家さんは南條竹則。その著書を読んだことはな
いが、作家、評論家、翻訳者であるようで、何冊もの
本を出しているようだ。その南條竹則が文春のなんか
の雑誌で連載していた数年前の「湯けむり読書日記」
というのがネットに載っていたの
だ。田中温泉に何回
も宿泊して、執筆をしている模様が日記として書かれ
ていたのだ。よほどお気に召しているようだ。どこが、
どうしてお気に入りになったのかは不明だが、同じ値
段出せば、もっとこぎれいで、美味しい食事が出て、
同等の温泉があり、同じ静かな環境の旅館はいくらで
もあるとは思うのだが?

その一部など引用してみると
…………
ヤレこのところ忙しくて、岩牡蠣の如く東京にへばりついていたが、こんな調子では小説は書けないと考え直し、東北新幹線に飛び乗った。
 やって来たのは、おなじみ東鳴子の田中温泉である。このあたり、山はもう紅葉(こうよう)が盛りを過ぎて、宿の前には黄色い落葉が一面に積もっている。毎年真っ赤に色づく庭前(にわさき)の楓(かえで)は、もう茶色く縮れてしまった。
 天下に名湯は数々あれど、田中温泉の泉質はじつに吾輩の身体に合っているらしい。旅籠(はたご)の方の湯に久しぶりに入ったら、生まれ変わったような心地がした。
 三時頃風呂に入り、蒲団にもぐって原稿を書く。あとは晩御飯を待つばかり。
…………と書くように、とにかくに田中温泉に頻繁に
宿泊している。この日記読めば読むほどなかなかに知
性あふれ茫洋として面白い。図書館に行ってこの作家
の本を探してみる気になってしまった。と、暇を弄ん
での温泉どうでもいい話。

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