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2008年3月18日 (火)

暴力と死の世界を淡々と描く映画「ノーカントリー」

昨日は3年ちょっと前に手術した脊椎狭窄症の定期的な
術後診察。月曜日と言うこともあるし、暖かいこともあ
り整形外科はいつも以上の激混み。一応予約制なのであ
る程度時間は読めるのだが、それでも病院で待つのは疲
れる。

診察終わって、昼食食べて、書店をブラブラしていたら
映画を観たくなり、先週土曜日から公開になったばかり
のアカデミー賞で作品・監督・脚色・助演男優賞4部門
受賞の話題作コーエン兄弟監督の「ノーカントリー」を
観て来た。

「赤ちゃん泥棒」からお気に入りの監督なのだが、今回
のは全編支配する静謐感が心の闇をより鮮やかに見せる。
毎回独自の世界観と映像感覚で魅せるコーエン兄弟の暴
力と死がテーマの映画が作品賞というのも現在のアメリ
カの時代相を反映したものだと実感させるもので、暴力
とあっけない死が日常の世界をシンボリックに描く冷え
冷えとした感触が独特の味わいで、受け付けない人には
忌避反応も出そう。

その暴力と死に不感症になったかのような殺し屋(助演
男優賞受賞のハビエル・バルデムが怪演)の殺すことの
意味さえ喪失した“目の前にいるから殺す”的殺戮の不
条理さ、牛の屠殺用の圧縮空気銃利用の奇矯さと殺しの
効率化。自己のルールに従って殺すだけだとする殺し屋
の無表情、あまりの冷静さ、痛みさえ感じないかのよう
な不気味さ、恐怖とは裏腹の圧縮ボンベを引きずる姿の
滑稽さのアンバランスさなどハビエルが体現する殺し屋
は映画史上でもトップランクの強烈なキャラクターだろ
う。

2                  

 

 

 

この殺し屋の存在は国際政治の場で自国のルールを押
し通し、軍事力を行使するアメリカのメタファーでも
あるのだろうか。

舞台は1980年のメキシコ国境に近いテキサスの田
舎町。ベトナム帰還兵モス(ジョシュ・ブローリンが
好演、「アメリカン・ギャングスター」でもいい味出
していた)が荒野で狩猟中に麻薬組織同志の銃撃戦の
あとと思われる死体の山に遭遇し、鞄に入った現金2百
万ドルを持ち逃げする。しかし、組織に素性を知られ、
おかっぱ頭の冷酷な殺し屋(ハビエル・バルデム)の
執拗な追跡にあう。その事件担当する老保安官(トミ
ー・リー・ジョーンズ)は、行く先々で無惨な死に直
面し虚無感を感じて行くばかり。

原題が「NO COUNTRY FOR OLD MEN」(日本タイ
トルでは意味不明)で、年とった者にもう国はないと
いう意味だろうが、この保安官がナレーションや劇中
で「昔は良かった。今はあまりにひどい」みたいなぼ
やきが、淡々と展開される殺しのシーンとの間に異化
効果を生じる。保安官の諦観ぶりを淡々と演じるトミ
ー・リー・ジョーンズの渋さが際立つ。

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